迷った先に、出会う偶然の魅力から始まる物語。『まよって、であって、めくりんポタリング』 ―❶

「散走(さんそう)」を通じ、地域社会が抱える課題解決をめざして開催される「ソーシャル×散走」企画コンテスト。

2024年の第7回コンテストで大賞を受賞したのは、愛媛大学 社会共創学部 環境デザイン学科と武蔵野美術大学造形学部空間演出デザイン学科による「FUN!FAN!HUMAN!RUN!KAMIJIMA!」。
 
瀬戸内海に浮かぶ、弓削島・佐島・生名島・岩城島をつなぐ「ゆめしま海道」を散走することで、島の魅力を発見するこの企画が、学生たちの更なるブラッシュアップを経て、「まよって、であって、めくりんポタリング」に改題し、2025年9月28日に一般の参加者を募り行われるプレイベントとして開催されました。





「ソーシャル×散走」企画コンテストとは?


環境、人口、文化、経済などさまざまな面で課題を抱える、現代の地域社会。そこに、ゆったりと自分のペースで自転車を走らせる「散走」を取り入れることで、地域の再発見と、より良い社会形成につながる課題解決を目指す(株)シマノ主催の企画コンテストです。2025年の第8回コンテストにも、地域社会に向き合い楽しく解決を目指す数多くの企画が寄せられています。






『まよって、であって、めくりんポタリング』


「しまなみ海道」と比べるとやや認知度の低い「ゆめしま海道」。訪れるサイクリストも通過点の一部として走り抜ける方が多く、「これでは街の魅力を知ってもらいづらい…」そんな思いから散走を取り入れ、島ならではの空気感や文化・歴史・自然・人の温かさ・移住者たちの思いを感じてもらいたいという想い作られた企画。参加者は、カードを引きランダムに表示される海道内のスポットを目指し、自分のペースで迷い、道中でふとした心揺さぶるモノ・コトに出会っていきます。



対象地域 愛媛県上島町(弓削島・佐島・生名島・岩城島)
企画のターゲット 観光客・サイクリスト
地域の状況・課題 認知度の低さ・人口減少
手段 学生による手書きの地図とカードを使って、偶然性・非効率性・遊動性・非再現性の高い散走を行うことで上島町の温もりある情景・歴史・人の営みを知ってもらいファンを形成する。




「まよって、であって、めくりんポタリング」は、愛媛大学 社会共創学部 環境デザイン学科と武蔵野美術大学造形学部空間演出学科(イラスト作成)による企画。その始まりは、上島町に移住し、ゲストハウス運営や狩猟を行う平田浩司さんが、愛媛大学 社会共創学部 環境デザイン学科 准教授の渡邉敬逸先生に話を持ちかけたのがきっかけでした。


928日の開催当日に、おふたりにこの企画における学生たちの努力やこれからの未来について、お話を伺いました。



まず、今回の散走企画はどのような経緯で始まったのでしょうか?



平田さん 散走という言葉を知ったのは「散走読本」という書籍がきっかけです。コンテスト以前から、「島で散走ができれば」とは考えていました。そのうちWeb上でコンテストがあるのを発見して、渡邉先生に話を持ちかけたんです。


渡邉先生 最初は平田さんから「散走のマップを作ってほしい」というお話をいただいたんです。現在の上島町のサイクリングマップは、決まったコースがあって、高低差なども詳細記載されている良いものですが、そこに”手触り感”がないと。また、街には移住者の生活を紹介するかっこいい媒体はあるのですが、それとポタリングがリンクしない。これをゆるーいマップで解決したいということでしたね。


平田さん 島には個性的な移住者がたくさんいますし、新店舗がいくつもオープンしています。みなさん島の魅力を活かした仕事をしています。自然も色も豊かです。しかし、サイクリングで島を訪れる方の多くは、ロードバイクなどでスピードを出して駆け抜けていってしまうんですよね。これでは、島の空気感を十分に味わってもらえない。だから、愛媛大学で地理を専門分野にしていて、地域コミュニティ活動も研究の中に組み入れている渡邉先生にお話を持ちかけたわけです。


『まよって、であって、めくりんポタリング』の企画はどのようにして決まっていったのですか?



渡邉先生 平田さんのお話とコンテストがあることを、学生に伝えたところ「応募したい!」という声が上がったため、本学科の演習授業として、2回生後期・3回生前後期の計1年半で企画立案をはじめたんです。普通のロードマップでは面白くないと、学生に話したことでで、本学の参加学生の友人である、愛媛出身の武蔵野美術大学の学生がイラストの作者として、参画することになりました。島のスポットに関しては、平田さんに選んでいただき、さらにそのスポットに学生がインタビューをして、背景やおすすめスポットなどを追加していきました。コースを決めないということに関しては、企画時はサイコロを振り、出た目のスポットに向かうことで非再現性や偶然性を持たせることを学生たちが考えつきました。これは実際の試走時の使い心地や、スポットが増加する将来のことを考慮して、カードを引くというスタイルに変わっていきました。


平田さん マップを作ってほしいという依頼から、ここまでのものができてくるとは思いませんでしたね。サイコロやカードを引いて、次の目的地をランダムに強制するっていう考えも面白いですし、道中で迷う散走であれば、いろんな所に立ち寄って話を聞いたりしながら、上島の空気を存分に味わってもらえるんじゃないかなと感じます。


実際にイベントを行ってみた手応えは?


渡邊先生 教員としての思いを語るなら「学生がよく頑張ったな」と褒めたいですね。企画で終わるだけでなく実際に試走しながら形にして、少ないながらも参加者を募り、PDCAサイクルを回せていますね。キットの完成度には、材質やデザイン、コストなどはこれから向上していく部分はあるにしても散走を面白く、無理なく強制するというポイントも抑えた、良いものを作ってくれたと思っています。何より私がこのプロジェクトを通して、「上島町って良いところだな」と再認識できました。


平田さん 私も十分にプロジェクトとして成功していると思います。特にカードにしたのは良いアイデアですね。使い方の幅も、どんどん広がっていきますし、他の地域のポタリングマップでも広がればいいなと思います。



このイベントの未来予想図を教えてください。


平田さん この散走イベントが定着してくれると嬉しいです。駆け抜けるのではなく、島を回って、宿泊もしてゆったり過ごす、散走のモデルケースに上島がなってくれると良いと思います。もっと言えば、今回は散走でしたが、他のロードバイクやマウンテンバイクなど、車種合わせた、マップの企画が作れたらもっと楽しいかもしれません。そんな取り組みを通じて、上島町の良さを知った方が移住を検討してくれるような仕組みができればいうことはないですね。


渡邉さん まずは多くの観光客の方がキットを手に取って実際に走ってもらって、ご意見を伺いたいですね。また、このキットを作る最中でも、上島町には次々と新店舗がオープンしていますから、これからも学生が主体となって新しい楽しみ方を創造していければと思います。このキットは町と学生、参加する観光客の皆さんという、人のつながりによってできていますから、企画に携わる方がそれぞれに、この島にもっともっと親しみを持ってもらいたいですね。



手描き地図とカードを使って、島ならではの空気や自然、人の温かさに触れるこの企画。迷いながら進んでいく参加者たちは何を見て、どんな出会いがあったのでしょうか。後編では弓削島に集まった21名の当日の散走の様子を追っていきます。



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