Ride&Fish
2025-02-23
冬の伊豆半島・下田でミニベロに乗ってRIDE&FISH|前編

自転車で釣りに行く、RIDE&FISH(ライド&フィッシュ)の可能性を追い続けるライターの小俣です。2025年、シマノスクエアからRIDE&FISH MAGAZINEの連載として、日本各地の自転車釣り旅を報告していきます。どうぞお見知りおきと、お付き合いのほどを!
初回は伊豆半島・下田に決定
その記念すべき連載第1回から、暗雲が……。
連載の開始が2025年初頭からということは、初回は1月の真冬の釣りということではないですか。言うまでもなく、寒い1月は釣りだけでなく、自転車で走るのもツラい季節。いっそのこと真夏のオーストラリアでバラマンディ釣りでも……えっ、いきなりそんな予算は無いって? シマノスクエアのASAKEN副店長は苦笑い。いやいや、冗談ですよ、副店長……。
さて、関東の海なし県に住む僕としては、この冬にどこで釣りをするかが悩みどころ。どこか暖かいところ……と地図を探していて目についたのは伊豆半島の南端、下田。単純に南に下れば暖かいであろうという楽観的な判断だが、半島のどん突きには秘境感もあるし、旅も楽しそうだ。2月の早咲きで知られる河津桜も、下田のお隣河津町の発祥。暖かいに決まっている。
そんなわけで、小春日和の下田を釣って走ろうと、折り畳み自転車を抱えて伊豆急行線に乗ったのだった。

今回は輪行を考えて折り畳み自転車のブロンプトンをチョイス。釣り竿2本と道具一式、着替えなどを含めても荷物はこれだけ。
釣れるまで帰らないRIDE&FISH
伊豆急下田駅に着いたのは夕方だった。夏には大勢の観光客で溢れかえるこの駅も、さすがに冬の平日は人通りも少ない。すでに駅構内の食堂に「金目鯛」「鮮魚」と文字が踊っているあたり、魚っ気があっていい感じだ(金目鯛は陸からは釣れないけれども)。
真冬の釣りであっても、海釣りは日の出と同時に開始したい。そんな思いもあって、今回は前日にやってきた。前泊のいいところは、夜ご飯に地のものを楽しめること。もちろん海鮮をいただいたが、お刺身の盛り合わせが赤サバ、金目鯛、アオダイ、黒ムツ、オナガメジナといずれも珍しい魚であることに下田のポテンシャルを感じる。そしてどれも美味であった。

奥列左から赤サバ、金目鯛、アオダイ。手前列は左から黒ムツ、オナガメジナ。なかなか他所ではお目にかかれない刺身盛り。
(写真/小俣雄風太)
さて、下田RIDE&FISHのターゲットをどうしようか。下田は自転車で走ったことはあるけれど、釣りをするのは初めてということもあり、数日前に釣具屋さんで釣れる魚を聞いてきた。店員さんは、
「ルアーでやるならアオリイカとアジなら釣れるでしょう。下田なら釣れますよ。」
と、まるで難しいことなんて何もないような口調で言うのだった。あんまりに普通に釣れるよ、と言うものだから、オススメのエギやルアーを買い込んで店を出たときにはもう釣れた気分になっていた。よし。
近年は温暖化の影響もあってか、冬でもアオリイカが釣れるのだという。むしろ釣り人が少なく、プレッシャーがかかっていない分、冬は釣りやすいくらいのものらしい。そして同じポイントでアジングをすれば、何か釣れるでしょうと。タックルは異なるけれど、比較的釣り方が似ているエギングとアジング。同じポイントでできるなら効率がいいかもしれない。
とはいえ、僕はエギングもアジングも人生で数えるくらいしかやったことがない。新しい釣りを覚える良い機会だと思い、今回は「何か釣れるまで帰らない」とハードルを上げて臨むことにする。冬の釣り、釣れなければ釣れるまで自転車を漕ぐのみだ!(そしてすぐ後悔することになる)
明け方、建物がきしむような音がしていたが努めて気にせず眠り続けた。びゅうびゅう、がたがた、みしっ……。嫌な予感がする。

下田はかのペリーが開国の先鞭をつけた地でもある。街のあちこちに開国にちなんだ物産があり、観光地化している。(写真/小俣雄風太)
自転車なら風裏を探しやすい
明けて翌日。日が昇り切らないうちに宿を出るが、ものすごく風が強い。暴風といってもいいレベルだ。明け方の風が今も吹き荒れている。意を決して出発するも、向かい風に漕いでいる自転車が止まりそうなほど。
こうなると、風裏を探すのが釣りの基本。強い西風が吹いているので、それを避けられるポイントを自転車で探す。幸いなことに、半島の南端にあたる下田エリアは東西に逃げられるし、地形も入り組んでいる。車では駐車場所の制限を受けるところだが、ここは小回りの効く自転車のメリットを活かして釣り場を探す。

あまりの風の強さに苦笑い気味だが、釣りができるポイントを探さないことには始まらない。自転車だと小規模な風裏ポイントを発見しやすいことに気づいた。向かい風だと漕ぐのは大変だけれど、やる価値はある。
風裏になっているポイントを発見。ずっと風を受けながら走ってきたから、風の弱い場所が体感でわかるのはRIDE&FISHのいいところかもしれない。まずここで竿を出してみるが、気温は3度ほど。風裏とはいえ冷気はしばしば吹き抜けてきて、手がかじかむ。パックロッドをつなぐのにも苦労するほど。もちろん、ガイドに糸を通すのも苦労した。うう。

朝イチはエギングを試す。というよりも、この風では到底繊細なアジングなどできそうにない。透き通った海中に、蛍光色のエギがぴょんぴょんと跳ねるのが見える。雰囲気はよく、今にも釣れそうだ。
太陽が顔を覗かせて、少しずつ海面を照らしていく朝の瞬間は、釣り人に特権的に与えられたゼイタク時間。


朝イチはエギングにトライ。背中側から風が吹く位置で釣りをするが、ラインスラックがうまくとれず苦戦。もっと釣りやすいポイントを探す必要がありそうだ。
満潮と日の出が重なるいいタイミングだったが、残念ながら釣果なし。さぁここから、釣り場を探すライドが始まる。ラン&ガンの要領で、海沿いをRIDE&FISHだ!

ライド&フィッシュの重要アイテムがパックロッド。このサイズになるからこそ、自転車での移動がスムーズになる。
多くの半島がそうであるように、伊豆半島の海沿いは起伏に富んでいる。海沿いというとなだらかな平坦が続くイメージだが、それは太平洋側の一部地域のことかもしれない。山と海が近い伊豆では急勾配の上りも珍しくない。釣具一式を積んだ6段変速の折りたたみ自転車で、ぎりぎり走れるライン。
でもとにかく寒いので、上り坂はむしろ歓迎だ。身体が温まる。

アップダウンを越えて港に行き当たった。どんな釣り場か、魚はいそうか、この瞬間は毎回わくわくする。
RUN&GUNならぬ、RIDE&FISH
次のポイントとして入った漁港でもイカの反応はなし。時折ベイトフィッシュの群れなどが表層を泳いでいて、雰囲気はいいのだが、水が少し澄みすぎているか……? ちなみに釣り人の姿はみかけない。
冬のRIDE&FISHで難しいのは、ウェア選び。自転車に乗るだけなら薄着でよいのだけれど、その格好でしばらく釣りをしていると凍えてしまう。薄手のインナーダウンなど軽量なウェアをプラスして持って行くようにしたい。荷物の積載量が限られるRIDE&FISHだが、寒いととにかく釣りにならないので要注意!


小一時間ほどエギングを試してみたけれど、アタリはなし。
再び移動。相変わらず風が強いが、太陽が出てきたおかげで朝イチほどの寒さではないのが救い。しかしそろそろ何か釣れてくれないと、いよいよ今日は帰れなくなるかもしれない……。
しばらく走って見つけた漁港には、うまいこと風を避けられるスポットが。エギをひたすら投げたあとは、小型のメタルジグをキラつかせ、テトラポッドの穴にワームを投入してみるが反応はなし。むうぅ、なかなか渋い。

大きな壁面のおかげで風が少し和らげられた防波堤。魚がいる雰囲気も充分で、あれこれ試してみる。エギにメタルジグに、ミノーに…

テトラの隙間でワームの穴釣りもやってみたけれど……音沙汰なし。
だいぶ粘ったけれどもそろそろ昼食を取らねばお店も閉まってしまう。ライド&フィッシュで攻めるような町外れのポイントでは、周囲にお店が極端に少なく、そして営業時間が限られがち。釣りに熱中しがちだが、ちゃんと食べないとペダルを漕げない。食べられる時に食べておくこと。これはRIDE&FISHの鉄則として抑えておきたい。
バシャバシャッ! パックロッドを畳んでバッグに仕舞っている時に、眼の前でいきなりナブラが発生! しかしタックルは全て畳んでカバンの中(泣) 10秒ほどのフィーバータイムを呆然と見つめる。しかし今日最初の生体反応だ。魚はいる。これは、いけるんじゃないか?

ナブラのあったエリア。あと3分、粘っていれば……。これも釣り。午後に期待する。

ナブラに遭遇して、トンネルの先に光が見えた気がした。午後は、釣れるでしょう! 伊豆半島は内陸に入ると雰囲気のある手掘りのトンネルがいくつもある。
Text: 小俣雄風太
Photo: 水上俊介
(後半に続く)