cycle event

超茶会散走 ~浪華の知の巨人と煎茶文化探訪~

[開催日] 2018/11/04

今回の散走は、11月3日(土)にシマノスクエアで開催された「超茶会」のコンセプトを、散走の中で楽しんでみようという企画です。ゲストに煎茶の文化を現代に伝える一茶庵嫡嗣 佃梓央様をお迎えし、一緒に散走をした後、一茶庵で煎茶サロンの楽しみ方の手ほどきをしていただきました。

※シマノスクエアイベントスペースで開催された「超茶会」についてのレポートは、こちらをご覧ください。
https://www.shimanosquare.com/news-event/cycle/entry-219.html


 前日のトークイベントでは、南画の大成者の一人である池大雅の絵が題材として取り上げらたことにちなみ、本日の散走では、同じく江戸末期に活躍した大阪出身の文人である、与謝蕪村をテーマとして走りました。蕪村は文人画の大成者としてだけではなく、画と俳句を合わせた「俳画」を芸術の様式として確立したことで知られています。日本人なら多くの人がホッとするような情景を俳画の中で表現した文人です。今回は想像力を働かせて当時の景色や足跡を探しながら、文人たちも愛した煎茶の体験を、一茶庵へ学びに行きました。


 

 最初に立ち寄ったのは、茶屋町の阪急梅田芸術劇場の敷地内にある、山と月の形をモチーフにした近代的なオブジェ。石碑には、「菜の花や 月は東に 日は西に」という有名な蕪村の句が刻まれています。江戸末期、菜種油をとるために菜の花が盛んに栽培され、梅田一帯は一面黄金色の菜の花畑が広がる光景だったそうです。現在はスマホを片手に待ち合わせをする若者たちがオブジェを囲んで集う、憩いの場となっています。


 淀川を上流へ向かってしばらく走ると、毛馬に到着。この周辺には、与謝蕪村の生家があったと伝えられています。堤防には蕪村が62歳の時に故郷に思いを馳せて詠んだ「春風馬堤曲」18首が、自身の筆跡で、その解説と共に石碑になっています。この曲は少女の視点を借り、大阪での奉公から3年ぶりに帰郷する道中、幼いころから親しんだ懐かしい情景が現れてゆく様子を、発句・漢詩・漢文直訳体を織り交ぜて表現した、斬新なスタイルの和詩です。


 句碑のある土手を降りてすぐの場所には、蕪村公園があります。公園内に点在する巨石には、蕪村の句がそれぞれ刻まれています。入り口にある蕪村の肖像や代表作の写真を見ながら佃梓央先生の説明を聞いていると、今回の散走のテーマである蕪村の人となりが在り在りと浮かび上がってきます。

 隣には先程の春風馬堤曲18首の口語訳があったので、試しに一首ずつ参加者の方々と交代で音読し、蕪村の曲を現代風に味わってみました。 淀川の堤を歩いて帰郷し、道々で目に留まる景色や老いた母を想う様子が、私たちが散走で走って来た景色と重なります。


 蕪村も通ったであろう道を散走した後は、いよいよ一茶庵へとハンドルを切ります。大川を下っていく途中の桜宮では、近代以降の煎茶会の規範ともなった大寄せの煎茶会が開かれた場所、青湾碑に立ち寄りました。かつて、都会の真ん中を流れるこの川の水の清冷さが煎茶に適していたとは、今となっては信じがたい事実です。文人画の大家である田能村直入の力強い「青湾」の筆致は、時代の変化と共に失われたものの存在を、静かに主張しているようにも見えました。


 大阪城の西を通り、いよいよ今回煎茶の体験をさせたいただく一茶庵に到着です。こちらにある煎茶室土蔵は昭和中期に建てられた、登録有形文化財となっています。細い露地を抜けて室内に入り、中国風の意匠がこらされた書斎へ。ビルに囲まれて外からは見えなかった素晴らしい空間が、内部に広がっていました。今回のためにご用意いただいた掛け軸や茶器、部屋の作りや煎茶の文化についてを解説していただいた後、煎茶の楽しみ方について手ほどきを受けました。


一同驚いたのは、ウイスキーを舐めるようにごく少量を口に含み丁寧に味わうという、普段のお茶の飲み方とは全く異なるスタイル。そして一服目、二、三服目と明らかに変化していく煎茶の味わいです。周囲を囲むひとつひとつのしつらえから芸術性を感じ、煎茶と自由な会話を楽しむ。忙しない社会から一歩身をひいた様な、上品で落ち着きのある空間に居心地の良さを感じながら、文人たちの気品あるひとときを垣間見る、短くも楽しいひと時を過ごしました。


「俳諧は、俗語を用ひて俗を離るヽを尚ぶ、俗を離れて俗を用ゆ、離俗ノ法最かたし。」
蕪村の、「俳諧とは」という門人からの問いかけにたいする答えで、「俳諧は、俗語によって表現しながら、しかも俗を離れるところが大切なのである」という意味だそうです。 

 普段何の気なしに飲む煎茶や、簡便な移動手段として使う自転車を俗になぞらえると、本日の煎茶体験と散走では、伝統文化への意識の持ち方や、土地が歴史的に内包する物語への認識次第で、随分と心境が変わるものだなという実感がありました。毎日当たり前なものとして慣れ親しんでいる文化や道具の存在を、感性に富んだ楽しみや遊びとして捉えなおす事ができた、実りのある一日となりました。


【煎茶体験講師】

 

一茶庵嫡嗣 佃 梓央 様