今と昔の道をたどれば、この街がもっと好きになる。『古地図散走』|後編

競技や移動手段ではなく、散歩のようにゆったり、自転車に乗る時間を楽しむ「散走」を通じて、地域の抱える様々な問題を考え、解決方法を探る「ソーシャル×散走」企画コンテスト。

第8回開催となる2025年のコンテストでは、情報科学芸術大学院大学 メディア表現研究科による『古地図散走』が見事大賞を受賞。

古地図というツールを活用しながら自転車でゆったりと街を巡り、現在の地形と数十年〜約百年前の街並みを見比べ、今に続く歴史の重なりを感じることで世界の見方が変わる。学生たちが考えた、知的好奇心を刺激する散走が、一般参加型のイベントとして2026年2月22日に岐阜県大垣市で開催されました。








『古地図散走』開催は2026年2月22日(日)。早朝7時に岐阜県大垣市の情報科学芸術大学院大学 (IAMAS)には地元大垣はもとより、石川県や東京からも参加者が到着しています。参加者の皆さんは、ここで自転車を借り、散走のポイントや「今昔マップ」の使用方法のレクチャーを受けてから、プロジェクトメンバーと共に散走へと出かけます。


湧水と城を誇る歴史ある街、大垣で参加者の方々はどのような歴史の痕跡と出会うのでしょうか。




  自転車のホルダーに「今昔マップ」を表示したスマートフォンを装着したらいよいよ出発。マップ上には、散走でたどった道のりが軌跡として記録されていきます。


まず参加者たちが向かったのは、岐阜を代表する湧水「加賀八幡神社井戸」。明治7年に掘られたこの神社の井戸は古地図にも明記されていますが、これから向かう道は広々とした田畑の中。時折、古地図と現代の地図を見直し、迷いながら目的地へと到着。





こんこんと湧き出る井戸。早朝にも関わらず、地域飲食店の方々が仕込み用の水を汲みにきています。生活の中に豊かな水がある大垣市の光景に参加者たちも驚きつつ、一緒に名水で、喉を潤します。一息ついた一行は、あらためて次の目的地へ。




古い路地も、古地図を辿ると100年前は畑のど真ん中だったり、拡張された幹線道路に渡された陸橋に高度経済成長期の経済や交通網の発展の様子を確認したり。今までは、ただ目の前にあるものが、どのような背景があって、いつの時代にここに誕生したのかといった、歴史の流れが見えてきます。




古い道を抜けると突如現れる複合施設。大垣駅周辺は、かつて巨大な紡績工場や明治の高等女学校令を受けて誕生した当時としては先進的な県立高等女学校があった地域。その広大な土地が、商業施設やマンションに変わっている姿を確認すると、歴史と共に人の流れや日本経済の移り変わりを実感します。



散走も終盤に差し掛かった所で大きな発見が。


IAMASからわずか数キロの地点、プロジェクトのメンバーもこれまで知らなかった古めかしい建物が姿を現しました。古地図で確認すると、100年前から同じ形状をしています。


「これ、100年前のレンガの工場か…」。誰ともなくつぶやく声には、どこか宝物を発見したようなウキウキとした感情が込められていました。




散走の締めくくりは大垣市が誇る、喫茶店の飲み物1杯の値段で、パンやご飯が付いてくる「モーニング文化」を堪能します。コーヒーにご飯と茶碗蒸しというチャレンジングなメニューに挑戦する参加者も登場。美味しい朝食を食べながら、古地図片手に街を回ったメンバーで、改めて散走の感想を交換していきます。




「普通に自転車で走ってたら、ただの”移動”ですけど、古地図片手だと全く視界が変わりますね。周りの風景により目が向くようになりました。」


「目的があるようでない、でもすることはしっかり決まっている。そのゆるい感じが楽しいね。その場その場で、目的が見つかるから全く飽きない。」


「道って、過去と今で形が変わるんだって、今更ながらに気がつきました。見比べないといつ変わったかということすらわからない。見ているつもりで見えていない街の形ってあるんですね。」




「私は10年以上この辺の道を使っているのに、古地図を片手に散走したら、初めての道が見つかってしまった。」


思い思いに、語りながら散走イベントは和やかに幕を閉じました。


「ソーシャル×散走」への応募を鈴木さんらメンバーに勧めたIAMASの赤松教授も、今回の散走イベントに参加しています。


イベント終了後、学生たちのこれまでの取り組みを側で見守り続けた先生にお話を伺いました。



赤松教授 学生たちが企画した「古地図を用いた散走プロジェクト」は従来の観光的アプローチとは一線を画すユニークな試みとなりました。


私も今回一緒にイベントに参加して、大垣出身の親子と一緒になりましたが、30年以上この街で過ごしていたお父さんでさえ、知らない道、知らない街の歴史を見つけていました。


その土地に住んで、街をよく知っているようでも、その実、日々の行動パターンは一緒になってしまうんですよね。そこに古地図散走を持ち込んだことで、「昔は田んぼだったけど、新しく道ができたんだ」「かつて道があるのに今はない。ここ一体どうなったんだ?」なんて疑問が浮かんできて、みんなどんどん知らない場所へと踏み出していきました。


参加された親子の間でも「お父さんが子どもの頃、この景色は…」なんて会話も弾んでいました。街の解像度を上げ、愛着を育むという学生たちの企画は成功したんじゃないでしょうか。


また、先生は「ソーシャル×散走」が成功裡に終了した秘訣を、これからコンテストに挑む学生へのエールともにこう語ります。



赤松教授 学生たちは楽しんで企画を立てていましたし、何より試走を重ねていった点も良い結果を導く大きなポイントだったのではないでしょうか。デスクワークや頭の中で考えているだけでは、正解にたどりつかない。散走企画で大切なのは”まず走る”こと、そして仲間同士でディスカッションすることだと思いますね。体験を通じて、アイデアを補足していく。この繰り返しが彼らの企画を確かなものにしていきました。これからこの「ソーシャル×散走」企画コンテストに挑む皆さんも、ぜひ頭で考えるだけでなく、実際の行動・体験と組み合わせることで、良い企画を生み出していってほしいと感じます。




目まぐるしく変わる都市。画一化されていると語られる街並みの中にも、目を凝らせば街の積み重ねてきた歴史の痕跡が発見できる。そんな新しい気づきを与えてくれる「古地図散走」。いつでも、どこでも、だれでもできるこの散走を、あなたも体験してみませんか?



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