今と昔の道をたどれば、この街がもっと好きになる。『古地図散走』|前編

競技や移動手段ではなく、散歩のようにゆったり、自転車に乗る時間を楽しむ「散走」を通じて、地域の抱える様々な問題を考え、解決方法を探る「ソーシャル×散走」企画コンテスト。

第8回開催となる2025年のコンテストでは、情報科学芸術大学院大学 メディア表現研究科による『古地図散走』が見事大賞を受賞。

古地図というツールを活用しながら自転車でゆったりと街を巡り、現在の地形と数十年〜約百年前の街並みを見比べ、今に続く歴史の重なりを感じることで世界の見方が変わる。学生たちが考えた、知的好奇心を刺激する散走が、一般参加型のイベントとして2026年2月22日に岐阜県大垣市で開催されました。





「ソーシャル×散走」企画コンテストとは?


環境、人口、文化、経済などさまざまな面で課題を抱える、現代の地域社会。そこに、ゆったりと自分のペースで自転車を走らせる「散走」を取り入れることで、地域の再発見と、より良い社会形成につながる課題解決を目指す(株)シマノ主催の企画コンテストです。これまで8回のコンテストが開催され、学生たちのアイデアが存分に活かされた企画が披露され、また実現してきました。続く2026年の第9回開催に向けて、準備が進められています。






『古地図散走』


自動車での移動が当たり前になっている地域では、乗り物=移動の手段のみとなってしまい、街の魅力に触れる機会が少なくなってしまいます。また、特に郊外都市では区画整理やチェーン店の進出により、都市の風景が画一化され個性が見えづらくなっています。ただし、こうした景観は時代によって変わりゆくもの。今見ている風景も、数十年前は全く違ったものであったはずです。そこで、古地図をおともに散走を楽しむことで、街の歴史や時代の流れに触れ、新たな魅力を再発見し、走った街への愛着を深めていきます。



対象地域 全国の郊外都市
企画のターゲット 誰でも
社会課題 街を知る機会や愛着の低下・都市の画一化
手段 古地図を表示するWebサイトを参照しながら街中を巡り、街の歴史や街並みの変遷を知る。古地図に記されているかつての道や建造物を目当てに散走を楽しむ。



『古地図散走』を企画したのは情報科学芸術大学院大学(IAMAS) メディア表現研究科の運動体設計プロジェクトに携わる、プロジェクトリーダーの鈴木光泰さんをはじめとした7人の学生。彼らは「サイクリングを楽しみ、その批評性を探求する」というクリティカル・サイクリングを提唱する赤松正行教授のもとで、自転車を題材にした研究に取り組んでいます。今回のコンテスト参加もそのひとつ。


2月22日のイベント開催時に、この企画の道のりや未来への予想図を鈴木光泰さんに伺いました。



古地図散走が生まれたきっかけは?



鈴木さん 恩師である赤松先生に「参加してみたらどうだ」と話をいただいたのは、今回のコンテスト参加のきっかけですね。実のところ、私たちはグループライドなんかは何度もしていましたが「散走」という言葉に出会ったのは今回が初めて。このコンテストに参加したことで、良い体験や新しい視座が生まれたと思っています。


私は大学院で「虹チャリ」という、走行すると虹が生まれる自作の自転車を用いたモビリティを作っていて、これで福島の浪江町などを走って、そこから生まれる人と人、自転車と人とのコミュニケーションについて研究しているんです。この研究の中で、「虹チャリ」に乗ったからこそ見えた世界、発見できた景色があると気づいた私は、散走でも「どのようにしてあたらしい世界を見るか」という観点から企画に取り組みました。


まず、400〜500個ほどのアイデアを出して、そこから面白そうなもの、散走という題材に適したものを仲間と絞り込んで、最後に残ったのが古地図を用いた散走です。最後に残った理由も単純で「何もグーグルマップだけが地図じゃないんだから、古地図を使って走ったら何が見えるだろう」という好奇心を感じたからですね。


「古地図の中だけに存在する昔の街の痕跡を見ながら走る」というスタイルをどのように実現していったのですか?



鈴木さん 今回の散走で用いる重要なツールのひとつは、「今昔マップ」というWebサイトです。企画のテーマが決まった後の試走で、当初私たちは紙の古地図を使っていたのです。しかしこれだと、今自分が古地図のどこを走っているのかわからないんです。


困った私たちは、ツールを紙からデジタルに変更することを決め、使用できるものを探している中で、たどり着いたのがこの「今昔マップ」です。


埼玉大学の谷謙二教授が作られたこのサイトは、現在の地図と百年ほど前〜平成期までの地図を重ね合わせて表示したり、GPSを用いて古地図の中に走行地点や走行の軌跡を落とし込むことができるんです。これによって、古地図散走は実現へと大きく近づきました。


ツールが決まったら、「あとはその有効性を検証するだけ」と仲間と共に、IAMASのある大垣市内や、メンバーの帰省先時にも散走を実施しました。さらにはコンテストの最終審査会の前日には、会場であるシマノ自転車博物館のある大阪府堺市でも試走を実施するなど、計6回の試行錯誤を繰り返しました。


今回のイベントで参加者の方に感じてほしいこと・伝えたいことは?



鈴木さん 古地図散走を通じて、街の解像度を上げることができて、できればその街に愛着を持ってほしいということですかね。


よく都市論などでは、街の画一化といったことが叫ばれますよね。どのロードサイドにも同じようなチェーン店が並んで、似たような景観になっていると。確かに、道を自転車で走り抜けると、変わり映えしないように見えるかもしれません。でも街並みをつぶさに見れば、いろいろな違いが見えてくるんです。それを最も感じられるのが古地図。つまり、街が歩んだ歴史の積み重ねを見ることだと思うんです。散走を通じて、なぜ「この道はここにあるのか」、「この神社はなぜ移転したのか」といった街の変遷に目を向け、古地図でその謎を探る。そうすることで、街に対する解像度は上がっていきますし、なにより気づけなかった街の一面を垣間見ることで愛着も深まっていくと思うんです。


散走イベントでは、そんな街への想いを深める機会になってもらえればと感じています。


イベントとして実現した『古地図散走』ですが、これからの目標は?



鈴木さん 古地図散走に関しては体験設計的にまだ課題があると感じていますが、その反面あまり散走のフォーマットを固めすぎてしまわないほうがいいとも感じています。


古地図散走では、時として地元の方や何十年もその道を通っている方でも気づいていなかった、歴史の痕跡と出会うこともあります。ルートを決めたり、散走方法を固めてしまうと、この楽しみがなくなってしまうような気もしています。プランの決まった旅行ではなく、あてのない旅のような偶然を楽しめるものであってほしいですね。


幸いにして、今昔マップは全国各地の古地図を網羅していますから、あとは自転車さえあればいつでも、どこでも、だれでも古地図散走は楽しめる。私たちのチームは、ゆるい実施の枠組みとアイデアを考えましたから、あとは興味を持っていただいた皆さんが、自分の街や初めて訪れる街で、古地図散走を楽しんで街の解像度を上げていっていただけると嬉しいですね。




こうして生まれた『古地図散走』は、2026年2月22日、岐阜県大垣市で実際の散走イベントとして開催されました。古地図を片手に街を巡ると、どんな発見があるのでしょうか。後編では、当日の散走の様子をレポートします。



EVENT Calendar

イベントの参加には事前に申込みが必要です。申込みは、各コンテンツページの「お申込み」をタップしてください。
イベントの参加には事前に申込みが必要です。申込みは、各コンテンツページの「お申込み」をタップしてください。